【実務に生きる法律 Part 4】身柄拘束をめぐる弁護活動について
司法試験に合格後、どのような流れで法曹に巣立っていくのでしょうか?裁判官、検察官、弁護士になるためには、司法試験に合格した後、「司法修習」と呼ばれる研修を受ける必要があります。司法修習を受ける研修生は「司法修習生」と呼ばれ、裁判所、検察庁、法律事務所をめぐり、実際の現場に赴き、生の事件を扱いながら12ヶ月間のOJT研修を受けます。司法試験合格迄に座学で学ぶ法律、と司法修習司法修習で学ぶ法律、どう違うのでしょうか。
本連載では、司法試験史上最年少合格を果たし、69期司法修習生として司法修習を終えたばかりの千葉 悠瑛さんに、初めて実務に触れた「司法修習中」だからこそ、学んだ法律知識について、執筆していただきました。法律を勉強している中で、「この知識って、どう実務に生かされるんだろう?」「実際の生の事件に生かされる法律ってどのようなものなのだろう?」といった疑問をお持ちの方に、ぜひ読んで頂きたいです!最終回は、【身柄拘束をめぐる弁護活動について】、千葉さんに解説していただきます。
弁護活動の中でも最も重要なものの一つである身体拘束を巡る活動
司法試験及び予備試験で頻繁に出題されるトピックの一つに、被疑者又は被告人の身柄拘束があります。実務上も、被疑者又は被告人の身体拘束からの解放は、弁護人が行う弁護活動の中でも重要なものの一つとされています。
そこで、本稿では、身柄拘束についての理解を深める一助となるよう、身柄拘束についての実務的な知識に触れたいと思います。
ご存知のとおり、刑事訴訟法では逮捕前置主義が採られているため、検察官が被疑者の勾留を請求する前提として、被疑者が逮捕されている必要があります。検察官が逮捕中の被疑者の勾留を請求すると、被疑者は、拘置所等の刑事施設から、護送車に乗せられて裁判所まで運ばれ、そこで裁判官から勾留質問を受けます。そして、勾留質問をした裁判官が刑事訴訟法60条1項各号の要件該当性を検討した上、被疑者を勾留するのを適当と判断した場合には、勾留決定を下すことになります。
この時、裁判官は、被疑者の話だけを聞いて勾留をするか否かを判断するわけではありません。勾留の判断にあたっては、検察官から提出される勾留請求書及び事件記録(当該事件に関する証拠書類等)はもちろんのこと、弁護人から提出された「意見書」等の内容も考慮されます。意見書は、法律上提出が求められている書面ではありませんが、当該勾留請求が却下されるべきであると裁判官を説得するために、弁護人が事実上作成・提出するものです。
また、弁護人は、意見書に加えて、被疑者の家族等に依頼して身柄引受書を作成させたり、被害者との間で示談をまとめた上で示談書を作成したりして、これらを疎明資料として提出することもあります。さらに、書面での説得に止まらず、弁護人の申し出により、弁護人と裁判官が面会をすることもあります。
このように、弁護人は、控訴が提起される前から、被疑者の身柄拘束を防ぐために、様々な弁護活動を行っているのです。以上に挙げたものの他にも、身柄の解放に向けた主な弁護活動として、勾留決定に対する準抗告や勾留中の被告人についての保釈請求等があります。
身柄拘束から解放する必要性とは?
では、そもそもなぜ被疑者や被告人を身柄拘束から解放する必要があるのでしょうか?当然ながら、被疑者等の身体を一定の空間に拘束するということは、それ自体被疑者等の自由に対する重大な制約となります。このような抽象論だけでなく、例えば、勾留を請求されている被疑者が、就職活動中の大学生であり、近日中に面接を控えているといったような事情がある場合には、勾留されて面接に行けなくなることにより、職を得られないという重大な不利益を被ることになります。このような不利益は、「勾留の必要性」という要件の中で検討され、勾留の可否の判断にも影響を及ぼすものであるため、弁護人としては、被疑者からこのような事情の有無を聞き出して、意見書の中に盛り込む必要があります。
また、弁護人は、被疑者等が身柄を拘束されていると、有効な弁護活動を行うことができない場合があります。たしかに、被疑者が勾留されていても、弁護人は、接見室で被疑者と接見をして、弁護活動に必要な犯行状況等に関する情報を聞き出すことができます。しかし、弁護人が事件について被疑者等から事情を聴取する際、ただ口頭で話をしてもらうだけでなく、被疑者等に身体の動作を使って犯行状況を再現させたり、現場見取図に書き込ませたりする必要が生じる場合があります。接見室は手狭である上、接見室内では、弁護人と被疑者は、透明なアクリル板越しでしか面会をすることができないため、このような場合には不便が生じます。
以上のように、身柄拘束からの解放は、被疑者又は被告人の防御権の保障という観点からも重要な意味を持つ場合があるのです。
なお、本稿では勾留の要件や権利保釈の除外事由等にはほとんど触れませんでしたが、これらの要件の充足性を検討させる問題は予備試験等でも出題されていますし、実務に出てからも重要となる知識なので、復習をしておくと良いでしょう。
最後に
弁護人が行う弁護活動の中でも重要なものの一つでもある、身柄拘束を巡る弁護活動について、いかがでしたでしょうか。千葉さん、お忙しい中四弾に渡り、コラムの執筆を頂き、有難うございました。
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